脳卒中
未破裂脳動脈瘤について
脳の血管の一部がコブ状に膨らんだものを脳動脈瘤といいます。
脳動脈瘤のうち、破裂をしていないものを未破裂脳動脈瘤と言います。未破裂脳動脈瘤はくも膜下出血の原因になり得る病気のため、脳ドックなどで未破裂脳動脈瘤を指摘されて心配されている方もいらっしゃるかと思います。ここでは未破裂動脈瘤の自然歴〜治療について解説します。
脳の血管の一部が風船のようにふくらんだ状態を脳動脈瘤といいます(左図:矢印)。脳動脈瘤ができる理由は明らかなにはなっておりませんが、高血圧や血流分布の異常などによる血管壁へのストレス、喫煙、遺伝などによる血管壁のもろさ等が複雑に関与していると推測されております。成人の3-5%程度にこのような動脈瘤が発見されます。この脳動脈瘤が破れていない状態のものを未破裂脳動脈瘤といいます。未破裂脳動脈瘤は頭痛やめまいの検査で行ったMRIや、脳ドックでおこなったMRIで発見されることが一般的ですが、なかには動脈瘤が大きくなって周囲の神経や脳を圧迫して、症状が出現することで発見されることもあります。
未破裂脳動脈瘤の多くは症状をだしませんが、中には先ほどご説明したように、大きくなることで周囲の神経を圧迫して動眼神経麻痺等(眼の動きがおかしい、まぶたが垂れ下がる、瞳孔が広がる等)の症状を呈したり、破裂をしてくも膜下出血をきたす場合があります。
未破裂脳動脈瘤の破裂率と破裂リスクについて
「破裂のリスクについては個々の状況に応じて考える必要があります」
未破裂動脈瘤の破裂率は、個々の動脈瘤において異なるため、破裂の危険性をひとまとめにして論じることは困難ではありますが、我が国おける約5700例の未破裂脳動脈瘤患者を対象とした検討では、全体の年間破裂率は0.95%でした。右図は脳動脈瘤の大きさ、発生部位と破裂の危険性の関係をまとめた表になります。この検討では動脈瘤の大きさ、数、形、家族歴、発生部位等が危険因子であることが判明しました。すなわち大きい動脈瘤、複数ある動脈瘤、家族歴のある動脈瘤、特定の部位に存在する動脈瘤の方が破裂のリスクが高いことになります。また脳動脈瘤破裂のリスクとなる生活習慣としては、高血圧、喫煙、過度な飲酒があげられています。
結局未破裂脳動脈瘤が見つかったらどうしたら良いのでしょうか?(治療方法と危険性)
「今後の破裂のリスクを検討して治療方針を検討する必要があります」
治療方法は大きく分けると1)慎重に経過をみる、2)積極的に破裂の予防を行う(すなわち手術を行う)の2通りになります。
1)経過観察について
これまでご説明してきたように、動脈瘤の形状や大きさ、部位、家族歴等から破裂のリスクが低いと見込まれるものは経過観察をお勧めしますが、経過中に増大して破裂したり、脳や神経への圧迫が出現して症状を呈する場合がありますので、慎重な経過観察が必要です。具体的には半年~1年に1回程度のMRI等による経過観察が推奨されます。経過中に増大し症状が出現した動脈瘤は破裂のリスクが高いと判断されますので、迅速な対応が必要になります。尚、経過観察する場合は、先ほどご説明した破裂リスクを高める生活習慣(高血圧、喫煙、飲酒)は改善することをお勧めします。
2)手術について
個々の動脈瘤の状況から破裂のリスクが高いと判断した動脈瘤に対しては手術をお勧めします。手術には、開頭術と血管内手術があります。いずれの治療も、最終的には動脈瘤内への血流を遮断することで破裂を予防します。開頭術は、頭蓋骨に窓を開けた後に脳の皺を分けて、動脈瘤の根元をチタン等でできた洗濯ばさみのようなクリップで閉塞して、動脈瘤への血流を遮断します(左図)。この方法は従来から行われてきた方法で長期の効果も実証されておりますし、動脈瘤の根元を完全に閉塞させることができれば再発の可能性はきわめて低くすることができます。ただし、頭皮を切開し、脳の皺の間を分けていきますので、術後に切開した部分の違和感や、脳神経障害が残ったりすることが、まれながらあり得ます。一方で、血管内手術は近年発達してきた技術ですが、頭を切らずに動脈瘤の治療ができることから、日本のみならず全世界的に急速に普及している治療方法です。血管内治療では、血管の内側を通じて動脈瘤に到達し、動脈瘤内にプラチナ製の非常に細くて柔らかいコイルを入れることで動脈瘤を閉塞させます(左図)。ただし、動脈瘤内にコイルをできるだけ詰めても、入るコイルの量は動脈瘤の体積の3割程度です。多くの場合、その後動脈瘤内の血流がよどんで、最終的には血栓で動脈瘤内がかたまることで破裂を予防します。しかし、中には動脈瘤内の血栓化が不十分になることで再発し、追加治療が必要になる場合があり得ます。また本方法でも動脈瘤の形状によっては治療困難なケースもありますし、術中破裂や脳梗塞等のリスクもあり得ます。これまでご説明したように、両治療方法ともに得意な点、不得意な点があることから、個々の患者さんの治療法を検討する際には、それぞれの治療方法に精通した医師が十分に検討してから治療方針を検討することが望ましいと考えられています。
東京警察病院には脳神経外科だけではなく、脳血管内治療の専門科である脳血管内治療科があり、それぞれの治療に精通した医師(脳卒中の外科技術指導医、脳血管内治療指導医)が在籍しておりますます。そのため、未破裂脳動脈瘤の治療に際しては、開頭術および血管内治療術の両面から患者さんにとって最適な治療方法を検討することが可能であり、その方にとってベストな治療を提供できるように努めております。また開頭術となった場合には、患者さんの術前検査で行なったMRIやCTの画像から、病巣を中心とした3次元コンピュータグラフィックスを作成し、作成した3次元画像を用いて手術シミュレーションを行うことで手術の安全性向上に努めております(右図)。未破裂脳動脈瘤に関して心配に思われていることがありましたら、いつでもご相談ください。
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