脳卒中

頚動脈狭窄症とは?

頚動脈狭窄症とは、頚部の頚動脈が動脈硬化により細くなる疾患です。

ここでは頚動脈が細くなることで生じる病気について解説します。

頚動脈狭窄症とは、頚部の頚動脈が動脈硬化により細くなる疾患です。動脈硬化が進行すると、血管壁にコレステロールなどの脂肪からなるドロドロした粥状物質がたまり(たまったものをプラークと言います)、次第に厚くなってくることで血管が細くなります(図1)。血管が細くなると血流が低下して脳梗塞になる危険性があります。さらに、細くなった血管に付着した血栓(血液の塊)や、動脈硬化をきたした血管壁の一部(プラーク)が剥がれることでも脳梗塞になる危険性があります。近年は人間ドックの普及や健康意識の高まりから脳梗塞発症前の無症候時に発見されることも多くなっています。

頚動脈狭窄症による症状とは?
「頚動脈狭窄症は脳梗塞や一過性脳虚血発作、一過性黒内障等の原因になります」

頚部頚動脈狭窄が原因で脳梗塞や一過性脳虚血発作、一過性黒内障等の症状をきたしたものを症候性といい、狭窄による症状を認めないものを無症候性といいます。
・脳梗塞
脳を栄養する血管が詰まる事によって脳の一部が死んでしまう状態です。脳梗塞がおきると右半身か左半身のいずれかに運動麻痺が出現したり、言葉がうまく喋れなかったり、意識がはっきりしなくなったりします。後遺症が残ることが多く、日常生活に手助けが必要になる可能性があります。
・一過性脳虚血発作
脳の一部の血流が一時的に悪くなる事によって運動麻痺などの症状が出現するものの、24時間以内に消失するものをいいます。症状が改善したとしても、その後に脳梗塞になるリスクがあるため速やかな対応が必要です。
・一過性黒内障
頚部内頚動脈は主に脳へ血流を送っていますが、一部は眼の網膜にも血流を送っています。細くなった血管に付着した血栓や、動脈硬化をきたした血管壁の一部(プラーク)が剥がれて網膜を栄養する血管がつまると目が見えなくなることがあります。これを黒内障といいます。症状は一時的で、多くは改善しますがその後に脳梗塞になるリスクがあるため速やかな対応が必要です。

頚動脈狭窄症と言われたら?
「頚動脈狭窄症と言われたらどのような治療が必要か確認しましょう」

これまでに世界中で長年にわたって行われてきた検討によって、病態(症候性か否か、狭窄の程度)に応じた最適な治療方法が判明しております。そのためまずは症候性か無症候性かを確認する必要があります。次に確認すべきは狭窄の程度です。血管の狭窄度の評価はいくつかの方法がありますが、NASCETという大規模臨床試験での評価方法が広く用いられており、狭窄度を30-49%までを軽度、50%~69%までを中等度、70%以上を高度と分類するのが一般的です(左図)。このように症候性の有無、狭窄の程度が判明すると、それぞれの病態に応じて最適な治療を行うことが可能になります。次項以降ではそれぞれの病態に応じた治療方法についてご説明いたします。

症候性頚動脈狭窄症の治療
「症候性頚動脈狭窄症ではより積極的治療が必要です」

症候性頚部頚動脈狭窄症とは、頚動脈狭窄症によって脳梗塞や一過性脳虚血発作、一過性黒内障等の症状をきたしたものをさします。症候性頚部頚動脈を放置した場合、既に脳梗塞を発症してしまった方は脳梗塞の再発をきたす危険性があるため治療が必要です。また一過性脳虚血発作や一過性黒内障にとどまった方も、頚動脈狭窄を放置すると脳梗塞を発症する危険性があるため治療が必要になります。
・狭窄が軽度の場合
一般的には血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)の内服が勧められます。また狭窄が進行しないように高血圧、脂質異常症、糖尿病をお持ちの方は、それらの治療をしっかりとしていただくことをお勧めします。ただし、狭窄が軽度でも動脈硬化をきたした血管壁の一部(プラーク)が脆くなって今にも剥がれてしまいそうな方は、以下に説明する手術(頚動脈内膜剥離術)が必要になります。
・狭窄が中程度〜高度の場合
狭窄が中程度〜高度になってくると、軽度狭窄でご説明した血液をサラサラにする薬や高血圧、脂質異常症、糖尿病の治療だけでは脳梗塞予防の効果が十分ではないため、これらの治療に加え手術(頚動脈内膜剥離術・ステント留置術)が勧められます。手術に関しては、別項でご説明いたします。

無症候性頚動脈狭窄症の治療
「無症候性頚動脈狭窄症でも積極的治療が必要な場合があります」

無症候性頚部頚動脈狭窄症とは、頚動脈狭窄症によって症状をきたしていないものをいいます。ただし無症候といっても今後脳梗塞になる可能性があるため、動脈硬化のリスクファクターの管理(高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙)が勧められます。症候性と異なり中等度までの狭窄では、他に心臓や血管系に病気があり脳梗塞発症のリスクが高いと思われる場合に、必要に応じて血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)で脳梗塞の予防をする必要がありますが、一般的に脳梗塞予防目的の手術は勧められていません。ただし軽度〜中等度の無症候性狭窄の場合でも、プラークが脆くなって今にも剥がれてしまいそうな方では、脳梗塞予防目的の手術が必要になる場合があります。一方で高度の狭窄では、これまでご説明した動脈硬化のリスクファクターの管理、抗血小板薬の投与に加え、脳梗塞予防目的の手術(頚動脈内膜剥離術・ステント留置術)をお勧めします。手術に関しては別項でご説明致します。

頚動脈狭窄症の手術治療
「頚動脈狭窄症の手術には頚動脈内膜剥離術とステント留置術があります」

 頚動脈狭窄症の手術では、血管の内側に詰まったゴミ(プラーク)を摘出する頚動脈内膜剥離術(左図)と血管の内側から細くなった血管を広げるステント留置術(下図)があります。これらのうちどちらを選択すべきについて、最新の脳卒中のガイドラインでは以下のように記載されております。

・症候性頚動脈狭窄症における手術
 中等度〜高度の狭窄においては、脳梗塞の再発を予防するために、先ほど解説したように抗血小板薬等の内科的加療に加え、頚動脈内膜剥離術を行うことが勧められています。軽度の狭窄ではプラークが脆くなって今にも剥がれてしまいそうな際には頚動脈内膜剥離術を考慮するものの、プラークがしっかりとして剥がれそうにない場合は内科的治療が勧められています。一方でステント留置術は、頚動脈内膜剥離術を行うにあたりリスクが高いと思われる場合(心疾患、重篤な呼吸器疾患、対側頚動脈閉塞など)に勧められています。頚動脈内膜剥離術を行うにあたりリスクが高くない場合にステント留置術を行うことは、考慮しても良いが十分な科学的根拠がないとされています。また高齢者や血管の蛇行や石灰化が著しく血管の状態がステント留置術に不向きな場合は、ステント留置術より頚動脈内膜剥離術が勧められております。

・無候性頚動脈狭窄症における手術
 軽度から中等度の無症候性狭窄においては、一般的には頚動脈内膜剥離術やステント留置術は勧められていません。ただしプラークが脆くなって今にも剥がれてしまいそうな際には、頚動脈内膜剥離術を考慮します。高度の狭窄においては抗血小板薬等の内科的加療に加え、頚動脈内膜剥離術を行うことが勧められています。一方でステント留置術は、高度の狭窄において頚動脈内膜剥離術の代替療法として行うことを考慮しても良いとされています。

東京警察病院の脳卒中センターには両者の治療に精通した医師(脳卒中の外科技術指導医、脳血管内治療指導医)が在籍しており、頚動脈内膜剥離術とステント留置術を安全に提供することが可能です。そのため頚動脈狭窄症の治療に際しては、脳卒中ガイドラインからの勧告を踏まえ、頚動脈内膜剥離術およびステント留置術の両面から患者さんにとって最適な治療方法を検討することが可能であり、その方にとってベストな治療を提供できるように努めております。

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