脳卒中

くも膜下出血について

くも膜下出血とはくも膜下腔に出血を生じる病気です。

くも膜下出血と聞くと、なんとなく怖い病気であることは知っていても、実際にどのような病気であるかをご存知の方はそれほど多くはないかもしれません。ここではくも膜下出血の原因〜治療について解説します。くも膜下出血の予防方法に関しては、未破裂脳動脈瘤の解説をご覧ください。

くも膜下出血とは
「くも膜下出血とはくも膜下腔に出血を生じる病気です」

人間の脳は頭蓋骨の下に直接存在するわけではなく、頭蓋骨の下には、外側から順番に硬膜、くも膜、軟膜といった膜があり、これらの膜に包まれる形で脳が存在しております。くも膜と軟膜の隙間はくも膜下腔と呼ばれておりますが、ここには脳を循環している透明な液体である脳脊髄液と、脳動脈や脳静脈が存在しております。くも膜下出血とは、このくも膜下腔に出血をきたすことの総称です(左図)。したがって、出血の原因にかかわらずくも膜下腔に出血を認めればくも膜下出血と診断されます。くも膜下出血を来す原因としては、外傷、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、血液凝固異常、原因不明など種々のものがありますが、なかでも最も重篤なものが脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血です。脳動脈瘤とは、脳の血管の一部が風船のようにふくらんだ状態を指します。脳動脈瘤ができる理由は明らかなにはなっておりませんが、高血圧や血流分布の異常などによる血管壁へのストレス、喫煙、遺伝などによる血管壁のもろさ等が複雑に関与していると推測されております。脳動脈瘤の破裂によってくも膜下出血になってしまった場合は、約3割の方が命を落とし、3割の方が何らかしらの後遺症を遺し、社会復帰されるのは3割という思い病気です。本サイトでは、最も重篤な脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血に対して解説していきますので、これ以降くも膜下出血と表現した際には、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血と定義します。
くも膜下出血の年間発症率は人口10万人当たり約20人であり、発症の危険因子としては喫煙習慣、高血圧保有、多量の飲酒(1週間に150g以上のアルコール摂取:ビール500mlはアルコール20gに相当)、くも膜下出血の家族歴、2個以上の脳動脈瘤保有などが挙げられます。

くも膜下出血の症状
「突然の激しい頭痛がくも膜下出血のキーワードです」

くも膜下出血は多くの場合「頭を殴られたような」突然の激しい頭痛で発症します。典型例では、激しい頭痛と頭部CTでくも膜下出血と診断がつきますが(右図)、重篤な出血をきたす前にごく少量の出血(警告症状)をきたす場合もあります。その場合は頭痛が一過性で、めまいや嘔心・嘔吐、意識を消失が主な症状である場合があり、注意が必要です。

くも膜下出血の治療
「予後不良因子を理解してそれぞれに最適な治療を行う必要があります」

くも膜下出血の予後を悪化させる3大因子としては①:一次的脳損傷、②:脳動脈瘤の再破裂、③:遅発性脳血管攣縮が挙げられます。くも膜下出血を克服するためには、それぞれの病態を理解して対策を取る必要があります。まず①の一次的脳損傷とは、脳動脈瘤の破裂によって引き起こされる直接の脳損傷を指します。重症例では即死してしまうこともあります。一次的脳損傷は破裂してしまった後では対処方法がありませんので、予防するためには未破裂の状態で対応する必要があります。こちらに関しては未破裂脳動脈瘤の項目をご参照ください。次に②の脳動脈瘤の再破裂について解説します。くも膜下出血は、多くの場合脳動脈瘤が破裂後に破裂部位に血栓と呼ばれるカサブタができて一時的に止血された状態になります(左図)。

しかしこの止血も一次的で、何かの拍子に再び破裂します。再破裂は発症から24時間以内に起こることが多く、動脈瘤が再破裂すると高率に予後を悪化させるため、再破裂を予防することはくも膜下出血を克服するうえで非常に重要です。再破裂を防ぐためには、脳動脈瘤内への血流を遮断する必要があります。脳動脈瘤内への血流を遮断する方法としては、動脈瘤の根元を洗濯バサミのようなチタン製のクリップで閉鎖するクリッピングと(右図)、動脈瘤の内部をプラチナをベースとしたコイルで埋めてしまうコイル塞栓術とがあります(下図)。

それぞれ一長一短がありますが、東京警察病院の脳卒中センターには両者に精通した医師(脳卒中の外科技術指導医、脳血管内治療指導医)が在籍しておりますので、患者さんの個々の状況に応じて最適な治療を行なっております。

③の遅発性脳血管攣縮とは、発症後数日から2週間前後の亜急性期に脳の血管が細くなることを指します(右図)。細くなることで脳の血流が低下して脳梗塞に陥ることがあります。発症機序に関しては不明な部分が多いのですが、くも膜下腔に溜まった血液が溶解する過程で血管を細くしますので、血管が細くなる原因である血液を手術の際になるべく除去したり、血管を拡張させる薬を投与して血管が細くなることを防ぎます。
これまで解説してきたように、くも膜下出血を克服するためにはいくつもの克服すべき点があり一筋縄では行きません。そのため当院のように脳卒中初期治療からリハビリまで包括的に対応が可能な専門の病棟(SCU病棟)を有し、かつ脳卒中に精通した医師(脳卒中の技術指導医、脳血管内治療指導医、脳卒中学会認定指導医)を有する施設で治療する必要があると考えます。

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